【チームの未来】400人以上のメンバーとテレワーク経営を行うニット社が描くチームの在り方とは

チーム 未来 ヘルプユー

これからのチームや働き方の在り方を、様々なフィールドで活躍しているビジネスリーダーに問うインタビューシリーズ「チームの未来」。第4弾は株式会社ニット 代表取締役の秋沢 崇夫氏に話をうかがいました。

株式会社ニットは400名以上のメンバーが世界各地からジョインするテレワーク企業です。事業内容は企業の要望にチームで応えるオンラインアウトソーシング事業と、人々に新しい働き方を提案するメディア事業。業務効率化を図る企業と、自分らしく働きたい働き手を支援しています。

「未来を自分で選択できる社会をつくる」というビジョンを掲げ、設立時からフルリモートで事業を展開してきた同社。今回は代表である秋沢さんに、テレワークの秘訣をうかがうとともに、これからの働き方とチームの在り方について語っていただきました。

  1. 個人でも会社でもなく、「チーム」でクライアントをサポートする
  2. チームは個人が力を発揮し、自己重要感を実感する場
  3. 個人と会社の関係に多様性が生まれていく
  4. 会社の在り方が変化し、チームの概念が変わる
  5. まとめ

<プロフィール>
株式会社ニット 代表取締役
秋沢 崇夫氏
秋沢 崇夫氏
1981年東京都生まれ。青山学院大学在籍中に、インターンシップで株式会社ガイアックスにジョイン。その後、営業や事業開発に関わり24歳で営業部長に。仕事を通じて、やりがいや自分らしさを見出すことができ、また組織長を経験する中で、【誰もが仕事を通じて幸せになってほしい】という思いを持ち、退職して東南アジアやアメリカへ放浪の旅にでる。旅の最中にテレワークを経験。このスタイルだったら、場所や時間に捉われることなく、自分らしい生活を実現できると実感。毎日オフィスに行くという働き方だけでなく、様々な働き方や生き方の選択肢があってもいいのではないかと考え、帰国後、多くの人の働く選択肢を増やしたいとHELP YOUサービスを立ち上げる。

個人でも会社でもなく、「チーム」でクライアントをサポートする

三田
現在の取り組みについて教えてください。

私たちはオンラインアウトソーシング事業と、働き方についての情報を発信するメディア運営事業を展開しています。

オンラインアウトソーシング事業では「HELP YOU」という名前のサービスをクライアントに提供し、企業の業務効率化・業務負担軽減を支援しています。

HELP YOU

HELP YOUの仕組みとしては、まず「仕事を頼みたいけど、新たに1人雇うほどでもない」、「全て外注ではなく、外部の力を借りて業務に対応したい」といったニーズを持つクライアントから依頼をいただきます。

そして、その仕事を世界各地・日本全国にいる専門スキルを持つ働き手とマッチングし、メンバーは基本的に在宅でクライアントの要望に応えていくという流れです。

メンバーが持つ知識や経験は様々。各クライアントの課題にあったスキルを持つメンバーでチームを構築し、数多くのお客様をサポートしてきました。現在、運営開始から5年で、大手からスタートアップまで300社のクライアントに利用していただいています。

次にメディア運営事業では「くらしと仕事」という働き方についてのメディアを運営しています。

「自分らしい働き方・生き方を選択している人を応援する」というコンセプトで、自分らしい働き方で活躍している人の取材記事や組織に向けたケーススタディー、働き方関連の最新ニュースなどを発信しています。今ではこのサイトを見て応募してくれる働き手や、更新を楽しみにしてくれているクライアントもいます。

三田
HELP YOU事業を運営して5年ということですが、クライアントと働き手のニーズについてどのように感じていますか。

クライアントからは新型コロナを期に、「業務の生産性向上を検討したい」、「DXを推進するために、業務を整理したい」などの声が多く寄せられるようになりました。業務フローを整えたい・上流工程の整理から手伝ってほしいというニーズが高まっています。

働き手については、こちらも新型コロナの影響で選択肢が増えている印象です。リモートで仕事ができることがわかり、副業を始める人もいて、1社に自分の収入を頼りきりにするのではなく、複数の仕事をしたいという考えの働き手も多くなってきました。HELP YOUでも並走型の人材が増えつつあります。

三田
少し話が飛躍しますが、副業とテレワークが進んでいくと、会社に所属するという意味が薄まっていくようにも思いますが、そのあたりはどのように考えていますか?

その通りだと思います。今後、個人は会社で働くという選択肢に縛られなくなっていくと思います。一方で、企業にとっては個人の労働力は信頼性を担保しにくいものです。同じ仕事ができるならだれにでも頼めるわけではありません。

企業が働き手に仕事を依頼する際には、グラデーションがあります。できればそれぞれの専門スキルを持つ人材に業務を担ってほしいと思いながらも、相手に対する信用・信頼がないままに仕事を発注するのは企業としては不安なのです。

秋沢 崇夫氏

仕事の進め方、コミュニケーションの相性、納品物のクオリティなど、最初に仕事をする際に気にする点が個人に集約されると代替がきかない分、企業としては不安が大きくなります。結果として、チーム型へのアウトソーシングサービスを使う企業が増えてきています。

「同一労働・同一賃金」に対応していくため、また派遣社員の期間制限に伴う正社員化といった法律上の制限があるなかで、「誰」に仕事を依頼するのか?ということの見直しをされたり、業務ナレッジを人の脳に保存するのではなく、「マニュアル化・仕組み化」する方法をご検討される企業は少なくありません。

チームは個人が力を発揮し、自己重要感を実感する場

三田
「チーム」という存在の現状とこれからをどのように見ていますか?

私はチームという言葉を、「目的のもとに集まって、なにかを成し遂げる集団」だと捉えています。たとえば、「サッカーでインターハイに出場し、優勝しよう」、あるいは同じ会社にいて「このビジョンを達成しよう」と目標を掲げる仲間がいる。

これらはどちらも「チーム」だといえるでしょう。

三田
HELP YOUのサイトには、「強みはチーム力」と書かれています。お客様と一緒に目標を達成するチームを提供するという意味だと思うのですが、そうしたチームを提供するためにどのような点を心がけているのでしょうか?

メンバーのエンゲージメントを高めるための場として、コミュニティ作りをスタートしました。

コミュニティは、メンバー自身が主導で進めており、業務やスキルアップを図るものから、雑談的コミュニケーションのものまで様々。パワーポイントの精鋭集団や母の会、平成生まれの会、国際結婚組など、現在20を越えるコミュニティが形成されています。僕もキャンプの会に入っています(笑)。

そこはボトムアップ型のスキルアップの場でもあり、仕事や生活の相談ができる場でもあります。当初は「働いてくれる人たちが定着しないとクライアントを不安にさせる」という懸念を解消する目的もありましたが、今ではより多くの可能性を感じています。

三田
メンバーとしても「HELP YOUにいる意味」を見出せそうですね。

そうですね。勉強のコミュニティだけでなく、趣味のコミュニティを通じて、共感し合える仲間を見つける場としても機能していってほしいです。「チームで仕事をしていく」ということは、業務だけのコミュニケーションだけではうまく行かないと考えています。

むしろ、雑談から始まるその人への理解、信頼関係などから良い仕事が生まれる。それを考えると、余白のあるコミュニケーションはテレワークではとても重要だと思います。

個人と会社の関係に多様性が生まれていく

三田
オンライン化・デジタル化の流れが個人と会社に与える影響についてどうお考えですか?

オンライン化・デジタル化の流れによって、人材の在り方・個人と会社の関係が変わってきていると思います。以前はすべてを所有する時代だったのが、「シェア」というサービスの形がでてきました。たとえば、カーシェアやシェアオフィスのような。

人材についても同じことが起こっています。労働力をシェアし、必要な時に力を集結してプロジェクトを進行し、終われば解散していくようなイメージです。

企業はこの外部プロのリソースをどううまく活用して、企業の事業を成長させていくかが問われます。同時に、働き手は常に自分のスキルを磨き、チームで仕事をしてパフォーマンスを発揮する能力や経験が重要視される世の中になっていくでしょう。

三田
コロナ以前から、それこそ5年前からフルリモートの働き方を実践してきて、感じている課題はありますか?

2つあります。まず1つ目として、クライアントとメンバーの間に、リモートリテラシーの格差があると感じています。

新たにテレワークを導入するクライアントの多くは、これまでメンバーシップ型で仕事に取り組んできました。タスクの割り振りをメンバー同士で感じ取りながら行ってきたクライアントは、業務を細かく切り分けて依頼するジョブ型のスタイルに慣れていません。

これはテレワーク導入時に陥りやすい課題です。ですので、HELP YOUではこのような企業を支援するための研修も用意しています。どうやって仕事を切り分けたらいいのか、どうやってマネジメントをしていくか、などを研修を通して学ぶプログラムを用意しています。

2点目の課題としては、オフラインとオンラインでのコミュニケーション格差の問題があります。リモートで仕事をした多くの人が、オンラインではコミュニケーションが最適化され、必要な話しかしないということを実感しているのではないでしょうか。

オフラインならできた気軽なコミュニケーションが、オンラインでは発生しにくいのです。このようなオフラインとオンラインで発生する意思疎通の差異を埋めるために、オフラインとオンラインのシームレス化を推進していきたいと考えています。

これは自社もですが、社会全体が抱える課題として取り組むべきことだと感じています。そしてこの部分を解決するために大切になってくるのが、雑談です。仕事と離れたコミュニケーションが信頼関係を作っていくのです。

秋沢 崇夫氏

さきほど触れた「コミュニティ」には、雑談のコミュニケーションを推進していく狙いもあります。また、もっとライトな交流の場としてはオンライン花見やオンライン忘年会も実施しています。

コロナ前にはミートアップという形で、メンバーとクライアントが一堂にリアルに会して、食事や飲み物を片手に、交流を図る場も設けていました。可能な形・可能なタイミングで、またこういった機会を持ちたいですね。

三田
確かに、実際に会えば、何気ない会話や行動を通じて知識や学びが共有されますが、オンラインでは難しいですね。そのような点には、どのように取り組んでいますか?

ニットでもそれは課題で、今後、オンラインの学校のようなものを作っていきたいと考えています。まずは社内でナレッジ共有の場を作っていきます。現状はコミュニティがその役割を果たしている部分がありますが、さらにナレッジの教材化を進めていきたいです。

最終的にはスタッフが自分の経験・スキルをもとに教材を作り、他のメンバーに教えることで教育の対価を得られるというイメージを抱いています。ニットのコミュニティーにおいて、メンバー同士が教え、教わる場を提供する存在になるのです。

三田
社員同士で学びの場を作っていくと聞くと、Googleの「g2g(Googler-to-Googler)」と呼ばれる社員同士のネットワークが思い出されます。Googleは社員同士の学びの場を、学ぶ側は実体験で得た知見を仲間から学ぶことができ、教える側は教えることによって成長できると説明しています。社員同士が教え合う場を設けるという話は聞いたことがありますが、そこに対価を設けるというのは面白いですね。

たとえば社内に優れた知識・スキルを持っている人がいるとして、「社外で教えれば報酬が発生するから、社内ではなく社外で教える」という形になってしまっては意味がないと思います。

今はまだあまり一般的な考えではないと思いますが、中と外のわかれ目が限りなくゼロになっていくなかで、働き手がわざわざ社外へ出ていくよりも今いる場所で周囲に対する教育を行うほうが自然です。

この考えを受け入れられなければ、結果として、優秀な人が会社を辞めてそれができる場所へと移ってしまいます。個人にできることが増えている時代において、会社がどれだけ個人を支援できるかが重要なのです。

会社が意識を変えていくことで、会社と個人はwin-winでいられるはずです。

三田
個人も企業も変わらざるを得ないということでしょうか。

1つの側面としてはそうですね。ただ、すべてがそうとも限らないと感じています。実際のところ、新しい働き方をしている人、複数の組織に価値提供している人、ジョブホッピングしている人は感覚値で1割ほどで、今後増えても3割程度だと考えられます。

残りの7割の人は既存の働き方にフィットしていく人です。これまで通りのやり方のほうがパフォーマンスを発揮しやすかったり、企業としてもすべての企業が変化できるわけではなかったり。そのような人材・企業のほうが多数派なのだと思います。

会社の在り方が変化し、チームの概念が変わる

三田
チームの未来はどのようになっていくと思いますか?

チームの概念が広がっていくと思います。

今までのチームは会社のなかの正社員だけ、もしくは契約社員・派遣社員・インターンも含めてというような形で、組織の「中にいる人」と「外」でわかれていました。今後は外部の人も含めて、一緒にビジョンを達成するプロジェクト型のチームに変わっていくでしょう。

このようなチームの概念の変化は、減少する労働力に対する政府の施策にもあらわれています。具体的には女性活躍、高齢人材活用、外国人材の受け入れなどが推奨されるなかで、副業やワークシェアリングも推進されている部分です。

秋沢 崇夫氏

1人の人材を1つの会社に押し込めるのではなく、1人が複数社に価値を提供していくことを政府が推奨しているのです。ワークシェアリングの概念拡大が加速化することで、労働力を分散させ、シェアする時代になるでしょう。

すでに優秀なプログラマやマーケターに対しては、1社で高額な報酬を支払うのが難しくなっています。だから複数社の仕事を対応しながら、スキルをシェアするのです。今後は特別な職種に限らず、営業や事務、企画書を作る人なども、複数社と契約して働くようになることが想像できます。

外部と内部のわけ隔てがなくなり、会社はいろいろな人材の力を借りるようになるのです。多くの企業が外部のメンバーも含めたチームを持つ時代がくるでしょう。

三田
そのような時代が近づくために、必要なことはありますか?

組織の外部にいる個人が、信用と信頼をどのように得るのかが課題だと思います。人にひもづく信用・信頼が可視化されたら、仕事を任せる安心材料となり、組織の中にいる・外にいるということが関係なくなるでしょう。

もちろんいきなりそのような形になることはないと思います。まずはそれぞれが信用・信頼を積み上げていく活動が広まっていくのではないでしょうか。

その際、SNSのフォロワー数やYouTubeの登録者数といったスコアがある一方で、他己評価のほうが影響力は強いと思います。不特定多数の評価より、ある個人と協働した経験を持つ知り合いがつける評価のほうが、スコアリングに大きく反映されるというイメージです。

今はまだ個人よりチーム、チームよりも会社のほうが、信頼性が担保しやすいと思われていますが、何らかの形で可視化されれば、個人に信頼性が担保されるようになるでしょう。そして、個人の信頼性の担保は働き方のさらなる多様化につながります。

今まで企業は「雇用して仕事を任せる」「仕事を切り出して外注する」という形で、仕事の担い手を中と外で明確にわけてきました。組織と働き手の関係でいえば、入社者は仲間で、やめていく人は敵という構図です。

今後、チームの在り方が変わっていくなかで、この関係も変わっていくでしょう。企業はすでにプロジェクト型になってきています。プロジェクト成功のために、知見のある外部の個人が社内のチームにジョインすることも増えてきました。

それは、いうなれば『オーシャンズ11』に登場するチームのようなものです。プロジェクトが始動する際に集結し、プロジェクトが完成・完了したら解散。次の仕事が面白いと思えば、またジョインする。そのような流動的なチームがこれから増えていくでしょう。

多くの企業と働き手が外部のチームをもって、内部と外部を互いに乗り換え、融合していくことで新しい価値を発揮していくのです。

三田
その未来が来るのはいつでしょうか。

3年~5年後でしょうか。企業とチームが変化する流れは新型コロナで5年ほど早まったと思います。みんながテレワークを経験して、その働き方が可能だと知って。本格的な変化の流れとしてはこれからだと思いますので、ここから3年~5年ほどだと考えています。

三田
新型コロナで変化が早まったということですが、秋沢さんが新型コロナを通じて得た気づきなどはありますか?最後に教えてください。

人とリアルで会う大切さですね。

人と直接会う時間にはオンラインにはないものがあると気づきました。たとえばアジェンダにない会話、空間を共有することで生まれるセレンディピティ、雑談や余白の時間に得る学び。いずれもオンラインでは得難いものです。

秋沢 崇夫氏

私たちはもともとフルリモートで仕事をしていましたが、必要に応じて集まる機会を設けてオフラインの時間も共有していました。しかし、本当の意味で会えなくなったことで、対面でコミュニケーションをとる重要性とそこで得られるものに気づきました。

また、テレワークで家が仕事場になったことで、今後はメディテーション(瞑想)やセルフマネジメントなどの価値が再注目されると思います。あえてなにもしない時間をつくる、自分の人生におけるゴールやより良い生き方や働き方を考え、身近な人にシェアする。そんな時間が贅沢になり、もっと一般化するのではないでしょうか。

まとめ

「チームの未来」インタビュー第4回目は、株式会社ニット 代表取締役 秋沢 崇夫氏に話をうかがいました。

世間でリモートワーク・テレワークが注目される以前から、400名の在宅メンバーとともにリモートで多くの企業を支援してきた同社。組織の中と外という概念に縛られない、独自のチーム観に基づく話はとても興味深いものでした。

プロジェクトごとに最適なメンバーが集まり、クライアントとチームになるHELP YOUというサービスは、これからのチームの先駆けとなる姿を示しています。これまでのチームの在り方をこえて、クライアントに新たな価値を提供している株式会社ニットの代表として、秋沢氏は「チーム」が歩んでいく次のステップを見据えていました。

<参考文献>
・「HELP YOU」
https://help-you.me/
・「くらしと仕事」
https://kurashigoto.me/
・「g2g(Googler-to-Googler)」
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/learning-development-employee-to-employee/steps/introduction/

執筆者・編集者紹介

執筆

正社員+業務委託で4社と契約を結ぶパラレルワーカー。様々なチームに所属し、1つの会社に依存しない働き方を体現しています。ライターとして800本以上の記事制作実績があり、得意分野は組織、キャリア、働き方関連。

編集

様々なバックグラウンドがある個人が尊重され続けるチーム作りを目指して、「対話」と真剣に「楽しく遊ぶ」ことをデザインしたチームづくりのためのプログラム「アクティ場 For Team」を提供しています。

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