【チームの未来】これからは会社という境界をこえた繋がりを「チーム」と呼ぶようになる

チーム 未来 多様性

これからのチームや働き方のあり方を、様々なフィールドで活躍しているビジネスリーダーに問うインタビューシリーズ「チームの未来」。今回は、EDGE株式会社 代表取締役社長でチーフエヴァンジェリストである佐原 資寛氏に話をうかがいました。

EDGE株式会社は組織運営において最も重要かつ難しい「人財育成」に特化した社内SNS「エアリーシリーズ」を運営・提供しています。働き方改革が叫ばれる昨今、コロナ禍も相まって、ますますオンラインでのコミュニケーションで人財育成、エンゲージメント向上を目指さなければならなくなりました。こうした課題をオンラインコミュニケーションプラットフォームの提供とその運用支援をパッケージで提供する同サービスは、600社以上の導入実績があります。

「コミュニケーションを通じて人が育つ、いきいきと学び、働ける」という理想を追求し、「人は、もっと輝ける」社会づくりに貢献しようとする同社。今回は代表である佐原氏に、これからのチームについて語っていただきました。

  1. ・新たなツールはマネージャーを支援するためのもの
  2. ・チームの理想的なあり方は一律ではない
  3. ・チームの影響範囲を広げられる会社・サービスが強い
  4. ・多様性がチームを進化させていく
  5. ・まとめ

<プロフィール>
EDGE株式会社 代表取締役社長 チーフエヴァンジェリスト
佐原 資寛氏

edge 佐原代表

2008年横浜国立大学工学部在学中より社内コミュニケーションプラットフォーム「エアリー」事業へ参画。企業のダイバーシティ推進を支援する「エアリーダイバーシティ」の立ち上げに従事。マネージャーを経て2014年より事業部長を務める。国内最大のテーマパークをはじめ、HRテックを活用し、エンゲージメント向上、社風改革、新卒採用、新人育成、研修フォロー、離職率低減、ダイバーシティ推進、OB/OGのカムバック支援など、人事課題に対するソリューションとしての支援・コンサルティング実績は150社超。2017年4月よりEDGE株式会社にて代表取締役社長を務める。HRテック、働き方改革関連の講演、取材実績多数。

EDGE株式会社:https://edge-inc.co.jp/
社内コミュニケーションプラットフォーム「エアリー」:https://airy.net/

新たなツールはマネージャーを支援するためのもの

三田
現在の取り組みについて教えてください。

日々HRテック「エアリー」シリーズのブラッシュアップを行うとともに、現在はマネージャー支援ツールの開発に注力しています。昨今の急速なオンラインコミュニケーションの浸透により、マネージャーのマネジメントハードルが高まっていると感じています。

新卒採用・働き方改革・人財育成・ダイバーシティ推進・大学キャリアを支援する情報発信サイト
出典:airy.net

多くの企業で、マネージャーとメンバーが面と向かってコミュニケーションをとれない環境が続く一方で、部下側の価値観の多様化が顕在化しています。

結果として組織では、本人のベクトルや会社のベクトル、チームとしての方向性がそれぞれ別で存在する形になっています。このような状況に対して、これまでのマネジメントスタイルでは難しくなってきていると感じるマネージャーが少なくないでしょう。

私たちはこうした変化に頭を悩ませる企業のマネージャーを支援するために、新規事業として新たなサービスの開発を進めています。

科学的に裏付けされたツールでチーム作りをサポートする

新たなサービスの開発に際して意識しているのは、これからは論理的に裏打ちされたサービスが支持されるようになるということです。新サービスでは、成人発達理論や発達心理学、意識構造分析などを通じて、人の価値観・欲求幸福度のアセスメントを実施する予定です。

意識構造の変遷が見え、論理的に考えるためのツールを活用することで、マネージャーは部下の状態に合わせた声かけをできるようになります。うまく活用すれば、定着率・離職率などの改善が可能です。

HR領域は近年、脳科学・発達心理学をとりいれ、科学で分析されています。経験値ではなく科学的な論拠をもとにし、ウェルビーイング、あるいはヘドニア/フロー/ユーダイモニア(※)の考えに根ざした働き方を目指しているのです。

※幸福には、「快楽のヘドニア」、「没頭のフロー」、「生きがいのユーダイモニア」の3つの属性があり、ユーダイモニアが最も良質という考え方。(参考/一般社団法人ユーダイモニア研究所)

また、科学的な論拠をもとにしているサービスは、企業の人事部門にとって検討していただきやすいものだと考えています。というのも、多くの人事部門のマインドセットは、一般的に、グロースマインドセットではなく、FIXマインドセットです。

グロースマインドセットとは、失敗を恐れず新しいことにチャレンジできる、クリエイティブ思考というイメージです。一方でFIXマインドセットとは、修理する・マイナスをゼロにする、あるいは失敗を正そう・回避しようとするイメージです。

通常、人事の仕事は労務管理など、ルールに則って決められたことに淡々と取り組むものであり、ファインプレーよりもミスしないことが重要視されるものだといえます。

ですので本来、新しいツール・システムを導入するときには、「うまくいかないのではないか」、「本当に変える必要があるのか」というFIXマインドセットが働きがちです。そのような際に、科学的な論拠にもとづくことは安心材料になると考えています。

チームの理想的なあり方は一律ではない

三田
「チーム」という存在の現状とこれからをどのように見ていますか?

チームのあり方は個人の自律度合いに依存すると考えています。全員が自律できていることが必ずしも正しく、生産性を高めるわけではないと思います。なぜなら、自分の幸福を求めている人もいれば、組織に必要とされることに幸せを感じる人もいるからです。

組織のなかでの存在価値が自分の存在価値だととらえ、組織に必要とされることに満足するというのも、個人の1つのあり方だと感じるのです。

なかには、そこから自分の目指すことを組織・チームで実現したいという思いを抱くようになる人もいるでしょう。組織のリーダーとして、メンバーに思うように動いてもらいたいと思いはじめて、仲間たちはなにをしたいのかと考えはじめるのです。

自分に周囲の矢印を向けさせるのではなく、それぞれがなにをしたいのか、意識できるようになる。そうすることで、自分の思いや考えを語るコミュニケーションが、はじめて三人称になり、利他主義にシフトしていく意識構造の変化が起こっていくのでしょう。

チームのあるべき姿はチームによって異なる

チーム 自律性

一言に「チーム」といっても、集まっている人、能力、価値観はそれぞれに異なります。そのため、チームの目的はなにか、何のために存在するチームなのかによって、チームの正しい形は変わってきます。

一般的に、クリエイティブな組織は多様性があり、新しいものを生み出せる一方で、衝突も多いといわれています。そのため、すべての組織にとって「クリエイティブ=いいこと」という形になるとはかぎりません。

たとえば、営業組織ではクリエイティブであることはあまり適さないでしょう。なぜなら、営業を行う際には、チームとメンバーの方向性が一致し、方法が最適化されているほうがいいからです。

結果として営業組織では「チームや組織のために、貢献したい」、「組織での自分の居場所が大事」といったマインドがあることがプラスに働きます。

「チームのためにがんばりたい部下」+「方向性を示し、牽引するリーダー」の組み合わせが、チームの団結を強め、成果につながりやすいものとなります。

このように、必ずしも「こういう形のチームがいい」という姿が決まっているものではありません。これからは本当の意味で個々を尊重する時代になっていくと思います。一律の形をしたチームでは機能しなくなるでしょう。

組織に貢献・組織を調整することに長けた日本人にとって、チームのため・組織のためを最優先にする働き手の存在を許容することも、「個」の尊重につながるはずです。

チームの影響範囲を広げられる会社・サービスが強い

三田
オンライン化・デジタル化の流れが個人と会社に与える影響についてどうお考えですか?

これまでの社会には新卒入社と終身雇用がありました。それは、いうなれば滅私奉公の構図です。しかし、最近では対価としての保証や安心が薄くなってきています。その結果、個人が社会のなかで自分の価値観を押し殺す必要がなくなったのです。

会社や組織に依存しない流れが加速しているといえます。DXはその流れのなかでは一要素でしかありません。ただ、DXによっていろんなところで人がマッチングできるようになり、ジョブ型で契約し、案件ごとのチームを作れるようになったと思います。

これからは組織の中で正社員として働くか、それ以外の二択ではなくなっていくでしょう。たとえば私は社員に対して、一度会社を退職して戻ってきてくれてもいいと考えています。副業をしてもいいですし、この会社での仕事が「副」になってもいいと思っています。

仕事のしかた・関係にはグラデーションが生まれていく

EDGE 佐原氏
オンライン取材中の佐原氏

今は仕事で関わる人が多様化しています。仕事をするパートナー、社内の仲間、お客様。会社を中心とした距離がどれだけ近いかによって、その関係を示す呼び方が変わってくるイメージです。

一方で距離がどれだけ離れても「うちの会社のチームです」といえる影響範囲が広ければ広いほど、その会社やサービスは強いでしょう。デジタル化・オンライン化の流れによって、境界線は簡単にこえられるようになりました。

また、私自身7月からは沖縄との二拠点生活をしようと考えています。このようなことが可能なのは、オンラインで遜色なく仕事ができるとわかったからです。

さらに、1日8時間仕事をして後はしませんということではなく、仕事時間のなかに様々な仕事、案件、クライアントがあっていいと考えています。

たとえば10時ー12時はEDGEの仕事、13時ー15時は個人のコンサルティング、15時からはEDGEの仕事というように。働き方も働く場所も制限する必要はなく、もっと多様化していくはずです。

こうした状況のなかで当社でも、オンラインでの1on1を実施する機会も増えました。コロナの影響もあり、1on1も含めたチーム内の会話が遠隔で行われることも増えると予想しています。

最近では「心理的安全性」がさかんに言われ、違う立場、違う価値観からお互いに言いたいことをぶつけ合い、新しい価値を生み出すことで生産性を高めることに注目が集まっているますが、心理的安全性の有無は感覚値では測れません。さらには1on1の機会では上司と部下以外の第三者は介在できないため、テクノロジーを使い音声から感情を分析し、相互に心理的安全性が確保されているのかを科学的に分析するツールの研究も進めています。

会社という枠から解放され、選択肢が増えていく

チーム オンライン化 デジタル化

さらにこれからは働き手と社内組織という関係だけではなく、「関わる人=チーム」という形が増えていくでしょう。個人にとってはいろんなものを自分の人生に入れ込む余地がうまれ、選択肢が増えるということです。

また、顧客にとっては、会社は1つの材料でしかなくなります。具体的には会社が提供するサービスを使うメリットは、「財務的基盤がある」、「いろんなハードルをクリアして設立された安心感がある」という程度のものになっていくでしょう。

何らかのサービスを提供するとして、大手企業が相手なら会社になっていたほうがいいかもしれませんが、個人から仕事を受けるなら会社である必要はないと感じます。

現在はSNSもあり、個人名が売れていくため、会社やサービスよりも個人名がブランディングされることも珍しくありません。

何度もいわれてきたことですが、個人は改めて、時間ではなく生産性に改めて着目すべきです。仕事時間のなかでインターバルをおくことで、生産性を向上でき、クリエイティビティを発揮できるなら、そういう時間の使い方は間違っていないといっていいでしょう。

多様性がチームを進化させていく

三田
チームの未来はどのようになっていくと思いますか?

今後はチーム/組織/会社と、定義すること自体がナンセンスになっていくでしょう。これらは物理的な境界線でわけられません。やろうとしていることの影響範囲をどれだけ広く持てるかが本質的な価値になってくるを考えています。

たとえば、社員が1万人いるより、使ってくれるユーザーも含めて「仲間が100万人いる」といえるほうがパワーがあるのかもしれない。それがたとえ社員10人の会社であっても、です。

チーム 未来

会社・組織の境界線を取り払って考えることで、「チーム」と呼べる新しい範囲が見えてくるでしょう。もちろん、社内の働き手以外をチームに含めるときには、新たに考えなければならないことも生まれます。

サービスの発展に貢献してくれるお客様はどういう立ち位置なのか。チームの範囲、影響範囲の中と考えるものの、上司はマネジメントせず、会社が給料を払うことはもちろんない。しかし、副業なら報酬が必要になる、といったように。

このように考えていくと、会社や組織の境界をこえていくときには、改めてチームを定義する必要があると感じられます。

独自の価値を示すヤッホーブルーイングの事例

社内と社外の境界をこえるチームの事例として、ヤッホーブルーイングのファンミーティングがあります。

同社はよなよなエールをはじめとするクラフトビールを手がける会社であり、定期的に「よなよなエールの超宴」と呼ばれるファンミーティングイベントを開催しています。
※現在は新型コロナウィルスの影響によりオンラインで開催。

よなよなエール チーム
出典:初開催「よなよなエールの❝おうち❞超宴」新型コロナで中止となった2,000人規模のファンイベントをオンラインで開催!

同社のイベントでは従業員とファンの垣根がなくなり、全員がフロー状態になるといいます。会社に所属している/していないの線引きがなくなり、全員で「チーム」となって、カオス感に包まれるファンミーティングはまさに同社が築き上げた独自の関係性の形です。

経営者として、会社・組織の境界をこえたチームを作ることには価値があると考えています。たとえば、社外の人なら社内の既成概念を壊せるという期待もありますし、複数の企業が幹部候補生をミックスし、人材育成を行う「他流試合」も面白い取り組みだと思います。

チームは、いろんな価値観・考え方の多様性があることで、さらに進化していくでしょう。これからは会社という境界をこえた繋がりを「チーム」と呼ぶようになると考えています。

まとめ

「チームの未来」インタビュー第2回目は、EDGE株式会社 代表取締役社長 チーフエヴァンジェリスト 佐原氏に話をうかがいました。

佐原氏はチームのあり方の多様性を認めるとともに、チーム内のメンバーに関してもいろいろな価値観・考え方があるべきだといいます。会社という境界をこえて生まれる繋がりこそがこれからの「チーム」の姿だという佐原氏の言葉に、個人の働き方やキャリア、そしてなによりチームの未来への新たな可能性を感じました。

※インタビュー日:2020年6月

<参考文献>

・一般社団法人ユーダイモニア研究所
https://www.eudaimoniauniverse.com/

・株式会社ヤッホーブルーイング「よなよなエールの超宴」
https://yonasato.com/column/cho_utage/

執筆者・編集者紹介

執筆

正社員+業務委託で4社と契約を結ぶパラレルワーカー。様々なチームに所属し、1つの会社に依存しない働き方を体現しています。ライターとして800本以上の記事制作実績があり、得意分野は組織、キャリア、働き方関連。

編集

様々なバックグラウンドがある個人が尊重され続けるチーム作りを目指して、「対話」と真剣に「楽しく遊ぶ」ことをデザインしたチームづくりのためのプログラム「アクティ場 For Team」を提供しています。

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