【リモートワーク時代のサードプレイス】個人・企業・チームに大切な第3の場所とは

リモートワーク サードプレイス
家庭でも仕事場でもない、「第3の場所」を指すサードプレイスとはどのようなものなのか。その概要を説明するとともに、企業の実施事例を紹介します。リモートワーク・テレワーク時代の新しいサードプレイスの在り方についても、考えていきたいと思います。

<目次>
「サードプレイス」とは
企業内のサードプレイス
リモートワーク時代のサードプレイス
まとめ

「サードプレイス」とは

みなさんは「サードプレイス」という言葉をご存じでしょうか。まずはサードプレイスがどのようなものかを見ていきたいと思います。人事関連の情報発信を行う「日本の人事部」の「キーワード集」によるとサードプレイスは下記のように説明されています。

――都市生活者には3つの“居場所”が必要だといわれます。第1の場所(ファーストプレイス)が「家」。第2の場所(セカンドプレイス)が「職場」。そしてその2つの中間地点にある第3の場所を「サードプレイス」と呼びます。

上記説明は2009年9月に同サイトに掲載されたものですが、ここでは「家と職場の中間地点にある第3の場所」と表現されています。

さらに日本の人事部には「サードプレイス」という概念を最初に提唱したといわれるレイ・オルデンバーグ氏による説明も記載されています。

アメリカの都市生活学者であるオルデンバーグ氏は1989年に著書『The Great Good Place』の中で、都市に暮らす人々が「心のよりどころとして集う場所」をサードプレイスと定義しました。

サードプレイスの代表例

オルデンバーグ氏はサードプレイスの代表例として、イギリスのパブやフランスのカフェ、ドイツのビアガーデンなどに言及し、その特徴を次のように説明しています。

―—自由でリラックスした雰囲気の対話を促し、都市生活における出会いの場や良好な人間関係を提供する重要な空間。

この説明からは、サードプレイスという場所が自分1人では成立せず、他者との対話や空間の共有が必要だということがわかります。

また、日本にサードプレイスを導入・定着させたのは、コーヒーショップチェーン大手のスターバックスだといわれています。同社の元会長兼CEOであるハワード・シュルツ氏は、サードプレイスについて、過去に次のように語っています。

―—ある統計によれば、私たちの年代は、両親の世代より年間100時間以上多く働いているといいます。加えて、携帯電話やメール、ファックスなど、プレッシャーを生み出すものがたくさんある。

スターバックスは、そういうものから逃れて休息する場所、オアシス。私たちは店を「サードプレイス」といって、自宅と職場の間というポジションだと考えています。

そして、そこで生み出されるのは「コミュニティ」というフィーリング。店を訪れた人同士がつながる、スターバックスはそういう場を提供しているのです。
<出典>小石原はるか(2001)『スターバックスマニアックス』小学館文庫より

こちらでも、やはり個人ではなく他者とのつながりが目的であるとされています。

対話をしないサードプレイス

最近では他者と対話することなく同じ空間を共有するサードプレイスも生まれています。たとえばそれは昼寝スポットや図書館、美術館などです。これらの場所で過ごす時間は、同じ行動をするという点でその空間にいる人々に一体感を生み出します。

多くの場合、そこに対話はありません。それでも、家でも職場でもない場所を「心のよりどころとして集う場所」とするというサードプレイスの定義に、当てはまるものだといえるでしょう。

ビジネスシーンにおけるサードプレイス

上記のようにヨーロッパに古くからあった文化であり、アメリカの都市生活学者であるオルデンバーグ氏によって定義されたサードプレイス。近年ではよりビジネスに近い場所でも活用される考え方になっています。

ここまで参考にしてきた「日本の人事部」では、企業や業種をこえて多様な人材が参加し、学ぶビジネスワークショップや異業種交流会も、サードプレイスのひとつの形態と捉えることができるとしています。

これらの集まりは、ビジネスに近いシーンでありながら、日々の業務から離れて他者と関わる場です。オルデンバーグ氏が提唱した「自分1人では成立しない」、「他者との対話・共有が必要」というサードプレイスの定義を満たすものだといえるでしょう。

企業内のサードプレイス

本来サードプレイスは家庭でも会社でもない場所にあるものですが、近年では、企業内にサードプレイス的な場を設置する事例も出てきました。

このような企業内のサードプレイスは、学びや自己研鑽、社員交流の機会として機能し、人材育成や組織の活性化につながると考えられています。

事例紹介

パナソニック「One Panasonic」

日本を代表する電機メーカーであるパナソニックには、「One Panasonic」と呼ばれる企業内サードプレイスがあります。

もともとはある新卒内定者が入社前に抱いた「経営層の思いを知りたい」という気持ちが発端でした。現在では社内で3000名以上が参加するコミュニティとなり、社外への発展も見せています。特徴は参加者の対話とアクションを重視する点です。

たとえば、「ロボットを作りたい」という思いを持つ社員が交流会で出会い、プロトタイプを作る「ロボット部」ができたという事例や、仲間との対話に刺激を受けた社員がビジネススクールに通いはじめるといった事例が生まれているといいます。

SEIKO「ヤミ研」

時計メーカーとして知られるSEIKOには「ヤミ研」と呼ばれるコミュニティがあります。「ヤミ研」では自社では製品化が難しいアイデアを社員が持ち寄り、興味の合うメンバーでチームを作って各自のメイン業務とは異なる開発を行っているそうです。

そこは社内部活動のような場で、社員たちが仕事を離れ、自分の好きなことに没頭する時間・空間として機能しています。また、「ヤミ研」で開発した試作品を手に、独立する技術者もいるということです。

住友理工「対話型鑑賞」

創立90年の歴史を持つ住友理工は、美術鑑賞を通して他者とのコミュニケーションを図る「対話型鑑賞」という場を作っています。

自動車をはじめとする様々な機械の部品製造を手がける同社では、これまで「正解に固執してしまいがち」、「双方向のコミュニケーションが苦手」という職人気質な製造業特有の課題を抱えていました。

仕事と離れた場所で、美術という様々な解釈が自然と広がる題材を使うことで、これまでになかった社員同士の対話が生まれ、相互理解の促進・チームワーク向上を実現しました。

サードプレイスの外部サービス

上記の事例のうち、住友理工の「対話型鑑賞」は京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センターの支援を受けて実施したものです。他にも、人材大手のパーソルグループも同大学の支援で「対話型鑑賞」を研修に取り入れています。

このように社内にサードプレイスを設ける際、自社で完結するのが難しい場合は外部サービスを活用するのも1つの方法です。

「アート」というテーマで見ると、他にも東京国立近代美術館が「Dialogue in the Museum」というビジネスセンスを鍛えるアート鑑賞ワークショップを定期的開催するなど、関心が高まっています。

Dialogue in the Museum<画像出典>
東京国立近代美術館「Dialogue in the Museum」

同ワークショップは美術館内で開催され、アイスブレイクとして鑑賞教材アートカードを用いた推理ゲームも実施されます。このようなパッケージ化されたサービスを活用すれば、社内でサードプレイスを運用していく負担を軽減できるでしょう。

また、サードプレイス関連のサービスについてはプログラムの多様化が進んでいます。具体的にはボードゲームから最新のビジネストレーニングまで様々なものがあり、複数の外部サービスを組み合わせて独自のサードプレイスを社内に作ることも可能です。

リモートワーク時代の「サードプレイス」

ここまで、広まりを見せるサードプレイスについてまとめてきましたが、社会は新型コロナウィルスの影響も重なり大きな変革期を迎えています。これからのことを考えていくうえで、リモート・在宅・オンラインといった要素は避けられないでしょう。

これまでサードプレイスの多くはリアルで集まる場所を想定されていましたが、これからはオンライン上でのサードプレイスが広まっていくと考えられます。

SNSでのコミュニティやオンラインゲームなど、心の拠り所なる場所はすでにオンライン上に存在していましたが、今後はその形がより細分化し、増えていくことが予想できます。

また、なかにはリアルで実施するよりもオンラインの方がフィットしていて、満足度が高いのではないかと思われるような場も生まれてきているといいます。たとえば体験シェアサービスのTABICAは、「オンラインスナック」がその一例だとしています。

オンラインスナックではホストがスナックのママさん的なファシリテーターとなって、オンラインで集まる場を盛り上げているそうです。ホスト側も参加者側も気軽に参加できるため、実施数・人気ともに伸びてきているといいます。

開催するのは、リアルでスナックをやっていた人や初チャレンジの人、さらにはインフルエンサーがホストの会もあるということです。オフラインではハードルが高い体験でも、オンラインだと実施・参加しやすいサードプレイスの事例だといえるでしょう。

オンラインスナック<画像出典>
TABICA「オンラインスナック特集」

また、企業向けにチームビルディング研修を行うアクティ場For Teamはだれでも参加できるオンラインワークショップを開催しています。

オンラインだからこそ、初対面の相手とも過度に緊張することなくコミュニケーションがとれて、プログラムに集中できる点が特徴です。

タイトルは「【オンライン開催】ハッ!とひらめく4コマワークショップ ~みんなで4コマ体操~」。

4コマを通じて自分を見つめなおし、表現するこのプログラムでは、画面の向こうにいる相手と一緒に、頭と気持ちをクリアにし、笑いにあふれた深イイ時間を過ごせます。4コマワークショップオンライン

同僚でも家族でもない人とつながるオンラインのサードプレイス

在宅勤務が社会に浸透し、通勤しないことが当たり前になると、家庭と職場が一体化して息苦しさを感じてしまうことがあるでしょう。そのような状況を打開する際にも、上記のようなオンラインアクティビティが有効です。

特に「対話」を軸とするオンラインアクティビティは相手から自分がどう見えるのか、自分の考えが他者とどう違うのかを知る機会になります。オンラインのサードプレイスという新たな場所で、会社でも家でも表に出なかった自分を再発見できるでしょう。

まとめ

職場でも家庭でもなく、「心のよりどころとして集う場所」と定義されたサードプレイスは、これまで少しずつその在り方を変えてきました。

会社と家の中間、カフェやパブ、広まりはじめた企業内での設置、今後は家族とともに過ごす時間のなかで、さらにはオフラインとオンラインへ。このサードプレイスの在り方の変化も、コロナが社会に与えた影響の1つなのかもしれません。

オンライン上でのサードプレイスはこれから場所や時間の制約をこえて、より多くの人々に必要とされるようになるでしょう。自分が自分らしくあるために、あるいは自分でも気づいていない自分を知る機会として、積極的に活用していきたいものです。

<画像出典・参考一覧>
・日本の人事部「サードプレイス」
https://jinjibu.jp/keyword/detl/241/

・富士ゼロックス株式会社「バーチャルハリウッド活動のご紹介」
https://www.fujixerox.co.jp/company/action/vhp/about.html

・日経XTECH「スマホで乾電池を操作! “ヤミ研”から生まれたIoT製品「MaBeee」」
https://xtech.nikkei.com/it/atcl/news/15/111203700/

・AERAdot.「大手企業研修に「美術鑑賞」 製造業の現場でも導入される理由」
https://dot.asahi.com/aera/2017113000043.html?page=2

・東京国立近代美術館「Dialogue in the Museum」
https://www.momat.go.jp/am/learn/dim-business/#section1-2

<画像出典>
・東京国立近代美術館「Dialogue in the Museum」
https://www.momat.go.jp/am/learn/dim-business/#section1-2

・TABICA「オンラインスナック特集」
https://tabica.jp/entry/featuring/online-snack/